触覚のこと

どう書いたら伝わるかな。
研究が進んだときに、これから私が書く内容が合っていると出るのか、間違っていると出るのかはわからない。
でも、自分が思い出した小さい頃のことや、その後の検査結果などから推測していることはある。
そういう経験者として、自分が危惧していることを書いておくのもいいかと思い、以下に記します。
先に言っておきますが、これは私個人の考えですから、今頑張っている子供たちに当てはまることなのかはわかりません。
気になったらお子さんに『もしかしてそういうことなーい?』とやさしく聞いてみて欲しいのです。
その子によって違うと思いますが、自分の場合はどうなのか話してくれるかもしれません。


まず、人は自分の体を五感を通じて認識してるのは、大体の人が納得できることだと思います。
自分がどんな姿をしているか、見下ろしたり、写真に撮ったり、鏡に写すとわかるのが視覚。
内蔵なんかを含め、見えないところまでどうなっているか人から教えてもらえるのが聴覚。
自分の体に触れてみたり、お母さんのおっぱいに触れてみたり、目を閉じて指先まで意識をしたりしているのが触覚。
自分の汗やおしっこやう○ちの臭い、お母さんのおっぱいの臭い、そんなのが嗅覚。
自分の腕を舐めてみる、お母さんのおっぱいの味を確かめる、なんてのが味覚。
それらから得られる情報を統合して、自分はどんな姿形をしているのか、判断しているのだと思います。
ここまではいいでしょうか?

でも、それじゃあその統合のしかたって、いつどんな風にして構成されるのでしょうか?

生まれてすぐにすべての機能がスタートする?
私はそんな風には思っていません。
だって、そうだったら心と体の性が一致していなくて悩んでいる人のことが説明できないもの。
それに、私の子供の頃の身体認知も説明できないもの。

私が説明できると考えているのは胎生期です。
生まれる前、お母さんのお腹にいる間に、そのとき入手できる情報で自分の体つきを定義してると考えています。
お腹の中だから真っ暗で、視覚による情報は入ってきません。
たぶん、ほぼ触覚だけ。
あと、体内や母体から入ってくる性ホルモンなどでしょうか?
ここで、体の神経系にごくわずかの問題が起きていたとします。
ちょこっと圧迫されていたとかね。
すると、その先からの情報は入ってきません。
性ホルモンだって同じこと。
どこかがほんのちょっと傷害されて、あるいは過剰に分泌されるなどして、情報がほんのちょっと変化してしまっていることもあるでしょう。
ほんのちょっとですよ?
さて、そんな状況でも、赤ちゃんは自分がどんな姿をしているか、頭のなかに思い描き始めます。
たぶん。
私の場合だと、先天性斜頸や股関節脱臼がありましたから、右半身や下半身からの情報が足りなかったのではないかと推測できます。

で、そんな不完全な情報を利用して自分の姿形を認識した赤ちゃんが生まれてくるわけです。
目を開けます。
ハジメテミタ、ソトノセカイ
アレ?ソウゾウシテタノト、ゼンゼンチガウスガタヲシタイキモノシカイナイゾ…
コリャマズイ…
ナントカシテイッチサセナイト…
たぶん、そんな感じだったのだと思います。
私はよく自分の両手を見ていました。
本来左右は対称的な形をしていますが、私の認識では同一でした。
それを必死になって理解しようとしているときに、箸を持つのは右手であることとか、鉛筆を持って字を書くことを教えられました。
もう完全にパニックです。
そりゃ箸を持つ手を覚えるのが遅くなったり、鏡文字を書いたりもするさ。
足の形なんて手とはまるで違うのがもう理解できなくて、正座して隠すことを覚えました。
当時の考え方だと、知恵遅れとされる状態でしたが、今考えてみたら、最初から体の形が本来の自分のかたちに合ってさえいたら、そんな問題は起きなかったわけで、知恵遅れと思った人をぶん殴りたい気持ちになりますね。
当時の医学じゃ仕方ないとわかっているからそうしないだけで。
ただ、教わったのがピッタリそのまま適用できる人だったとしたら単純に覚えるだけでよかったものがそうではなかったので、記憶力を発達させることができなかったのが心残りではありますが。

心と体の性が一致してなかった人はどうだったのだろう?
何かの折りに、小さい頃を覚えている方がいらしたら聞いてみたいところではあります。

さて、そんな感じだったというのはわかっていただけたでしょうか?

さて、ここで、触覚の話にようやくたどり着きました。

要するに、発達障害の当事者は、小さい頃に大混乱状態なのに、そこにさらに強すぎたり弱すぎたりする触覚を刺激して正常にしようなんてことをされたら…
当時の私だったら、たぶん恐慌状態でしょうね。
これ以上わけわかんないものを増やすな!って怒り出すかもしれません。

健常な方の場合、元から体の形は実際の体と一致した状態で生まれてきますから、感覚の一部が異常ならば、その異常部位を刺激して正常なバランスにするだけで、すべてが整います。
でも、発達障害の子の場合はそうではありません。
すでに崩れた状態なのを無理矢理運用しようとする過程で、さらにこじれた運用方法になってしまっているのです。
そこに余分な感覚刺激まで加わったら、なおいっそうどうしたらいいのかわからない状態になるのではないでしょうか?

発達障害の子は千差万別なので、これといった完璧なメソッドはないと思います。
だから親御さんも色々と試してみたくなるのでしょう。
ただ、本人にとってそれがよい方法なのかどうなのかは賭けになるのです。

だから、親御さんにはお子さんに伝えて欲しいことがあります。
『大丈夫だよ。君が努力しているのをよくわかっているよ。子供用として用意された語彙では表現できないことをやっているんだよね。大丈夫。シンプルな形を君が見つけるまで待ってるよ。大丈夫。それから始めたら、滅茶苦茶スピードが早くなるからね。今は君の課題に集中して♪』
子供だから、どこまで理解できるかはわかりませんが、心の底から『伝われー!』って念じたら伝わるのではないかと期待してます。

こんな症例もありますよ、ということで、誰にでも通用する話ではありませんが、書き記してみました。